複雑な感情

チェンバロは16世紀~18世紀の音楽を主に弾くのですが、時代が前になればなる程、その入手が困難になります。でも、歴史的に大変なことがあった為に、幸運にも残された楽譜があります。

そんな楽譜の話<其の1>

 イギリス、エリザベス女王治世の時代、イギリスはその前の王が離婚したいが為に、離婚が禁じられているカトリックからプロテスタントよりのイギリス国教会に改宗。カトリック教徒は迫害されていたのですが、カトリック教徒ですばらいい音楽愛好家であったトゥレジアン氏も、牢獄に(といっても楽器が持ち込めるような部屋)に幽閉されていました。そこで、彼はその当時の楽譜を集めては、または友人に持ってきてもらっては、膨大な数の作品を一冊の楽譜帳に写譜しました。それが、彼の死後フィッツウィリアム博物館に保管されていたために「The Fitzwilliam Virginal Book」と呼ばれる楽譜です。(その前は、彼を幽閉した時の女王の名を冠した「エリザベス女王のヴァージナルブック」と呼ばれていた!)今は電話帳のような厚さの楽譜2冊で出版されていて簡単に手に入ります。作成したトゥレジアン氏には大変な事でしたが、その為に、重要なすばらしい作品を見ることが出来るのです。

トゥレジアン氏は最後までそこに幽閉されていたようですが、途中からは坐骨神経痛に悩まされていて嘆願書を書いたと残されています。急に寒くなるこの季節にはいつもこのトゥレジアン氏を思い出し、おもわず、この楽譜に手を合わせたくなるのです。不運なトゥレジアン氏。幸運な私たち。複雑な感情がそこに生まれます。そういう事はきっと知れば沢山あるのでしょう。

バード、ブル、ファーナビー等、イギリスの巨匠等の作品が、また、アムステルダムのスウェリンク、イタリアのピッキの作品も含まれ、当時イギリスの音楽事情を垣間見ることも出来ます。

ちょっと重い話でごめんなさい。重苦しい秋雨にちょっと頭痛も感じる朝ですね。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です